バレンタイン妄想。
「よっ、邪魔するぜ」
玄関の戸を開けると、いつもながらぼーっとした顔の銀時が立っていた。
あいさつもそこそこに上がりこむと、どっかりと茶の間に座り込んだ。
「なあ、これ」
お茶でも入れてこようと台所に向かおうとしていた所に銀時が白い箱を差し出した。
箱にはピンクのリボンがかわいらしく結ばれている。
不思議そうに顔を見つめると、銀時はにっと笑った。
「ケーキ。バレンタインの残りで安くなってたから買ってきた」
こいつらしいなとひとつ溜め息を付いて少し笑った。
白い箱を受け取ると台所へ向かう。
緑茶を入れてやろうと思ったけれども、今日はコーヒーにしよう。
自分ではめったに飲まないが銀時が来る時のためにおいてあるのだ。
まあ、インスタントではあるけれども。
白い箱を開けてみると、チョコレートケーキだった。
湯を沸かしながらケーキを切り分ける。
ケーキ皿などないので少々不恰好だが許して貰おう。
コーヒーが入ったので用意しておいた盆に乗せて銀時の元へと運ぶ。
銀時はというとぼけっとテレビを見ていた。
うっすらと開かれた口がだらしない。
「今日はコーヒーにしたぞ」
「おう、どーもな。いっただっきまーす!」
フォークを握り締めると大きな口を開けて忙しくケーキを食べ始めた。
軽く手を合わせて小さくいただきますと呟いてから俺もケーキを口に運んだ。
チョコレートの甘さが口に広がる。
少し甘すぎたが、まあたまにはいいだろう。
銀時はぺろりと自分の分を平らげてコーヒーをすすっている。
勿論コーヒーにも砂糖とミルクたっぷりだ。
「食べるか?」
二口分程残っていたケーキをフォークに乗せて銀時の口元へ運んでやる。
「え、いいの?あーん」
子供のように口を開くのでそのまま食べさせてやった。
少々大きめだったため、口の端にチョコレートクリームが付いてしまった。
手を伸ばして口の端からクリームを取ってやり、指に付いたクリームをぺろりと舐めた。
何やら視線を感じて顔を上げると銀時がニヤニヤとこちらを見ている。
「何だ」
と低く問うと
「お前って時々やらしいよね」
と、返ってきた。
「馬鹿を言うな」
と更に返して、食べ終わった皿を台所へと下げに行った。
ひんやりと冷たい空気が頬に触れたが寒くはなかった。

夜も更けてきたので帰るという銀時を玄関で見送る。
「そんじゃね、コーヒーご馳走様」
「ああ」
ブーツを履き終えると背を向けて玄関の戸に手を掛ける。
「銀時」
「ん?」
振り向いた所に小さな箱を放ってやる。
危うく取り落としそうになったがなんとかキャッチすることに成功した。
「安くなっていたからな」
「おう、サンキュー」
じゃあな、と手を振ると銀時は帰って行った。
変わらないな、と昔を思い出して口元に笑みを浮かべる。
俺も、お前も。

「お互いもっと素直になれたらいいのに」


埋まってたので掘り出してみる・・・